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千住アートパス2019 出展作品
※ヘッドホンもしくはイヤホン聴取推奨
音楽 : 武内瑛(東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科)
歌・出演:佐々木りな(東京藝術大学美術学部先端芸術表現科)
照明装置設計、写真記録:上杉陸(武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科)
本作はSteam Audio SDKを用いたHRTF(頭部伝達関数)ベースのバイノーラル音響作品である。
鑑賞者が中央のベンチの上に置かれたヘッドホンで音源を聴くところから鑑賞は始まる。
本作は音の定位を意味する言葉である” 音像” および、記録メディアに着目している。
音像とは、主にステレオおよび三次元音響において音源の全体的な音の空間性を意味する”音場”とともに、
その音響システム、コンテンツの現実感を図る指標として用いられる。
音声媒体の役割の一つに記録がある。トーマスエジソンが蓄音機の使用例として遺言を想定していたように、
音声は現在も信頼性の高い記録媒体として用いられることが多い。
記録とは過去が現実であったことを確かたらしめるためのものである。
我々は日々あまりにも膨大な記録を残す。
私もほぼ毎日スマートフォンを用いて写真を撮り、日常の何かしらを記録に残している。
しかし、往々にして我々は昨日自分の撮った写真のことを思い出すことができない。
忘れないために写したはずが、1日も経てば写したこともろともすっかり忘れてしまうのだ。
人々は妄信的に過去を記録に写していく。
記録装置の小型化に伴いその量は加速度的に増大し、
同時に忘れられていくものも増えていく。
写真においては光が、音声媒体においては音が本来のデュレーションの範囲を逸脱し、
半永久的に延命させられたのちに忘れ去られていくのは、非常に哀れに思えてしまう。
それが思い出されたように再現されたとしても、フレーミング、サンプリングなどを経たのちに、
何かしらの出力装置を通して結ばれた像は現実とあまりにもかけ離れている。
そこに安心を覚えるのは、非常にも陳腐なことに思えて仕方がない。
本作は記録メディアによって生み出される虚像の実物との隔たりを
明らかにすることによって、
世界に氾濫する記録物の虚ろさを明らかにすることを目指した。